深層雨林

記憶が薄れてゆく前に

KAAT EXHIBITION 2020 「冨安由真展|漂泊する幻影」によせて

 

かつて
わたしたちだった
いつか、わたしだった
昨日わたしだったものたちが
暗闇にひそむ

 

暗闇のひそみで沈黙している
しんだけものたちの気配
ひっそりとまぎれて息を詰めてみても
しんでいないわたしのための場所は
ここにはない

 

 しんだけものも
 ひなたに連れ出せば
 ひなたの匂いになるのだろうか

 

ポケットの暗がりで
小さな機械がふるえている
何もかもが停止した廃墟の底で
ふるえている、と思うことだけが
今、だった

 

ほのおが夜を揺らす音
いつか、わたしだったはずの
壁か、椅子か、陶器の欠片が流れてくる
ひとひらを掴まえて
ポケットの暗がりにひそませる

 

かけらは、ふるえる
ふるえている、とわたしは思う
暗がりに差し入れた指先が触れる
かつて、わたしであったかもしれない
空っぽの暗闇に 廃屋に

 

 (2021.01.23)

 

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